前回に引き続き、日本ミシュランタイヤ株式会社様に、インタビューを行っています。
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- ①120年以上続くミシュランガイドの歴史と最近取り組みが進むデジタル化の効果とは?
②日本ミシュランタイヤはなぜ群馬県太田市に本社を移転したのか?執行役員に直接訊いてみた!
③金属積層造形技術 ミシュランタイヤが進める新しい技術と群馬県企業の連携
前回は、群馬県民が皆気になっている、「なぜ本社を太田市に移転したのか?」について執行役員の三輪様にお話を伺いました。
今回は、ミシュランタイヤが開発を進める新しい技術、金属積層造形技術について、研究開発本部 新規事業部長の伊藤様にインタビューした内容をまとめています。
伊藤様のご経歴
2002 年 ミシュランリサーチアジア株式会社(当時)ご入社
2020 年 研究開発本部 新規事業部発足に伴い、部長に就任
伊藤様のご紹介
ここからは、研究開発本部新規事業部の部長でいらっしゃる伊藤さんにお話を伺っていきます。
伊藤さん、よろしくお願いいたします!
はい、私は2002年に、ミシュランリサーチアジア株式会社という、当時は別の会社だった研究所に入社しました。
それから2023年の今日までずっと研究開発部で働いております。
入社当時はタイヤの設計の仕事をしていまして、それから先行研究系であるとか、プロトタイプのタイヤ設計のプロジェクトマネージャー等を務めました。
現職では新規事業部という、タイヤ以外のことに関する研究開発を行っています。
新規事業部の研究内容
ミシュランではですね、3つの事業領域を設定しています。
1つ目は「With Tires」で、タイヤとそれに関連する事業が該当します。
2つ目が「Around Tires」という領域で、タイヤ周辺の事業を指します。
そして、3つ目が「Beyond Tires」という領域で、これはタイヤを超越した新規事業領域になっております。
ミシュラングループとしていろいろな事業に取り組んでいる中で、特に米国と日本では、
●金属積層造形
●水素燃料電池
●タイヤ以外のリサイクル材
を3つの柱として活動しております。
金属積層造形技術
金属を加工する際に、従来の技術では、例えば「削り出し」という、大きな金属の塊から要らないところを削り取って形を作るというのが多かったんです。
従来の技術を「引き算の技術」だとすると、「金属積層造形」というのは本当に読んで字の通り、層を積み重ねる足し算の技術です。
必要なところにだけ金属を持っていく、ということですね。
非常に軽量なものや、複雑な形が作れるというのが特徴になります。
60%ぐらいこちらの方が軽いんですけれども、実際の強度や部品として必要な機能というのは全く変わらないんですよ。
もしかしたら、こちらがちょっと強いぐらい。
全然軽くて材料も少なくて済むので、環境面での負荷も軽いですね。
3Dプリンターのようなイメージ?
はい、イメージとしてはそれで間違ってないです。
しかし、やはり金属というのは、工業部品を作るというところもあり、樹脂と比べて難しい部分もございます。
そうですね、ミシュランではタイヤの金型として作って、その量産品まで作り上げることができたという歴史があります。
金属積層造形技術のノウハウは、いろんな企業と連携して、この技術を盛り上げていきたいと考えております。
群馬県企業との連携 GAM
群馬では群馬積層造形プラットフォーム 通称GAMというものを、2021年の7月に立ち上げさせていただきました。
こちらは群馬県の県内企業さんと一緒に立ち上げた、一般社団法人です。
詳細は、群馬積層造形プラットフォーム からご確認お願いします。
まずは、この金属積層造形技術をみんなで学んでいくことを考えています。
簡単にはなかなかものにできないので、人材育成が重要です。
また、実際にそれを自社の製品として導入するための試作ですね。
最終的には、皆さんで一緒に技術を使える形にしていくために、開発に関しての知見を共有していきます。
そのような実用化に向けてコンソーシアムを立ち上げております。
知見を共有することで、技術の発展を狙っているのですね!
ちなみに、どのくらいの企業が集まっているのでしょうか?
2021年7月に立ち上げた時には弊社を含めて8社でした。
今日現在では(インタビュー当時の2023年11月)、20社を超える会員の方もいらっしゃり、だいぶ盛り上がってきているなと感じております。
すごいですね!
それだけやはり新しい技術として注目度が高いということですよね。
新しい技術へのハードルが低くなる効果があるのかなと思います。
金属積層造形技術が導入される領域とは?
軽量化や複雑な形状を作れるのがこの技術の特徴です。
欧米ではモータースポーツや航空宇宙、または医療分野に向いていると言われており、研究が進んでいる分野になります。
ただですね、欧米と日本ではやはり産業構造が同じではないので、日本の産業に合った分野というのを開拓していくことも必要だと思っております。
群馬積層造形プラットフォーム(GAM)では、2023年5月の技術発表会にて、以下の2つを注力すると発表しました。
●円クーリングと呼ばれるプラスチックなどの射出成形
●多品種少量生産
GAMの今後の取り組み
我々はスタート時に「人材育成教育」「試作・実用化への取り組み」「開発」という3本柱をたてました。
教育分野は複数回研修も行っていて、かなり進んできたかなと思います。
なので、次は試作・実用化を進めていきたいと考えています。
ミシュランとしては、2016年に設立したAddUP (金属3Dプリンターの製造販売の会社)のビジネスを成功させていくことが、私達の部署の仕事にはなります。
ただ、金属積層造形という言葉は、まだ工業界では馴染んでないというのが実情だと思っています。
ミシュランとしては、金属積層造形プラットフォームの取り組みを通じて、まずはこの技術を普及させたいと、強く思っております。
その結果として、技術が普及した後にこれを買いたいと思っていただくお客様が増えれば、それが我々のビジネスに繋がると考えています。
一般の人が触れられる機会はある?
今は企業様への研修や教育が多いと思います。
私達のようなといった一般人が何かそういった技術に触れ合うような機会もあるのでしょうか?
去年と今年の2回なんですが、群馬県の太田市から群馬積層造形プラットフォームへの委託事業として、小学生向けに技術を紹介する取り組みを行っています。
小学生をこの場所にお招きして、デジタルものづくりの体験してもらう企画を夏休みにやっております。
広い意味で技術の普及を目指しているので、今後はいろんな方へ間口を広げていきたいと思っています。
伊藤さん、ここまでありがとうございます!
最後に何か伝えたいメッセージなどはありますか?
ありがとうございました。
これから「群馬から世界へ」ということで、金属積層造形技術に関していろいろ取り組んでいきたいと思います。
群馬の皆さま、引き続きよろしくお願いいたします。
まとめと次回
今回は、日本ミシュランタイヤの伊藤様に、ミシュランタイヤが進める金属積層造形技術について、またGAMの取り組みについてお聞きしました。
難しい技術ですが、技術を囲うのではなく知見を共有することで、技術の発展を狙う考え方がとても素敵だと思いました。
今後、一般の人も何か技術に触れられる機会もあるかもしれません。今後の工業製品を支える技術なので、ぜひチェックしていきましょう!
全3回、日本ミシュランタイヤ様にインタビューをさせていただいた記事をまとめました。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!
また、インタビューにご協力いただいた、三輪様、伊藤様、また関係者の方々、ありがとうございます。